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「アナタを信じていたのに私を騙すなんて、罪な人」

女は薄い笑みを浮かべながら呟いた。唇は発したい言葉を山程持っているのだろうか、少し震えている。手には砥石で際限なく研がれた出刃包丁がしっかりと納められている。女と出刃包丁は相性が良いのだろうか、何処となく似つかわしい。

薄暗い部屋の中、女の瞳が向く先には一枚の男の写真があった。写真の男の顔は数多の切り傷によって判別できない。だが歳は分かる。中年太りに侵食され始めた、若干お腹の出た体型から見て四十前後だろう。一見、優しそうな男性だ。

しばし沈黙が続いた後、再び女は口を開いた。

「私だけを愛してくれるって言ったのに…」

女は目を大きく見開き、写真の男を一途に凝視している。すると、次第に女の瞳は涙を覚えはじめた。その涙が女の悲しみを強く思わせる。微かに海の匂いがした気がした。

女の奇妙な独り言が、音を知らない部屋内に重々に響き渡った。

「アナタをついに殺したわ。何度も、何度も頭の中で。助けを乞うアナタを幾度となく、刺したわ。この快感、堪らない。愛しいわ、あなたが…」

女は男を思慕した。次第に声は大きくなっていく。闇夜の何処までも届きそうなくらい、どんどん大きくなっていく。

女は月を仰いだ。綺麗な半透明の満月である。満月は心を狂わせる。この月明かりの中、照らされるのは女の瞳と出刃包丁のみ。不気味な静けさが女を包み込んで行く。

「あなたは私の傍にいれば良いのよ。あなたは私の大事なモルモットであり、恋人でもあるのよ。もっと私だけを見て。嘘は絶対に許さない…」

握り締めていた出刃包丁で、写真の男の左胸を突いた。ゆっくりと、優しく、まるで赤子を撫でるかのように。

「放さない、逃がさない、殺さない………」

女は切り刻まれた写真をぎゅっと抱きしめた。

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