本日は雨。雨粒はさほど大きくないが、長く続きそうな嫌な雨である。
午後から、近くのグラウンドで野球の試合があるらしいのだが、このままでは中止だろう。
道ゆく人は皆、傘を差している。
そんな中、一人だけ傘を差さずに歩く、野球のユニフォームを着た小柄な少年がいる。
鞄を肩に掛け、野球帽を被っている。
どうやら、今日の天気が腑に落ちない様子だ。
少年は突然足を止めた。
そして、名も知らぬ彼女に向かって、軽く微笑みながら尋ねた。
「ねえ、君。野球拳しようよ。」
彼女は驚いた様子だった。
まじまじと少年の顔を見つめて、訝しげに訊き返す。
「今?ここで?なんで。」
「そうだよ。今日は君に服を着ていて欲しくないからさ。」
彼女は更に驚いた様子だった。
少年の発言が理解できないらしく、眉間に皺をよせた。
一方、少年は極当たり前のことを言っているかのように堂々と胸を張っている。
頭を掻き、溜め息をついて、別にいいじゃないと言葉を洩らした。
何かしら核心をついたらしい。
彼女は少し考え込んで、どうしようか迷っている。
沈黙が続いた後、穏やかな口調で、いいよと答えた。
少年は周りを見渡した。
今周りに誰もいないことを確認したようだ。
「や〜きゅう〜を・・・・・・アウト!セーフ!よよいのよいっ」
少年の声変わりをし始めた少し抜けた声が辺りに響いた。
よいっの掛け声と同時に、彼女が出した手は、全てを包むパー。
少年はそれを切り裂くチョキ。
少年の勝ちだ。
「僕の勝ちだね。」
少年は、してやったりという顔つきだ。
「私の負けね。」
しょうがないわ、脱ぐわよと彼女はしぶしぶと承知した。
だが、彼女があまり凹んでいるようには見えない。
強い風が吹いた。
あの小柄な少年をどこかへ連れて行きそうなくらい強い風だった。
すると、どうだろう。
今まで降り続いていた雨はぴたりと歩くのを止めた。
雲が割れ、眩しいほどの陽の光が射し込んでくる。
「これで野球の試合ができるよ」
少年は彼女にありがとうと伝え、再び歩き始めた。
肩で風を切りながら、試合を行うグラウンドへ向かった。
「いえいえ、どうしたしまして。」
彼女は浅くお辞儀をし、はにかみながら微笑み、消えていった。