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信次 (0.49KB)

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信次は萎れた花を好まない
元気のない様子を目にすると
それだけで体中のやる気が抜けていくからだ
細胞の持つ活発性が居た堪れなく
損なわれていくように感じるからだ
けれど、信次は萎れた花をどうしても嫌いにはなりきれない
萎れた花に漂う頼りなさや
みすぼらしい振る舞いは
どちらかというと好きだったからだ
愛すべき対象に思えたし
実際、彼女らは愛されるべき存在なのだった
くしゃくしゃに丸めた紙くずや
飲み干され、放置され、
忘れ去られた空の缶コーヒーとよく似ている
愛嬌のようなものかもしれないし
哀愁のようなものなのかもしれなかった
望まないうちに親近感の湧いてくるもの
まるで涙いっぱいに浮かべた三歳児の、
放っておけなさ

*

信次は萎れた花のびらの裏側も
どちらかというと好きだった
年老いた老人の首のように思えたし
また、伸びきった中華麺のようにも思えた
多くの含みからなるもの
それでいて、花のびらの裏側のすべりが
しっかりと呼吸をしているせいだ
今を鮮やかに映し込み
明日を一途に尊んでいた
一日一日
一枚一枚の重みを詠い、
そして喜びを宿しながら
時間のまま、くたびれていくように思えた
信じるままに
時計の針を迎え入れ
潔く
くたびれていくように

*

信次は結局
萎れた花が好きなのだった
隠そうとしても
無視しようとしても、できなかった
どうしようもなく強く
慈しんでいた
はらり
今すぐにでも落ち
時流の中でひからびてしまうにせよ
粉々に砕けてしまうにせよ
今まさに
瞬間的に愛していたのだ
いや
落下、崩落、絶望したとしても
やはり、愛しているのだ
瞬間の連続の中で
しかと愛しているのだ

*

信次は唇を寄せた
花のびらにそっと触れさせた
緊張して逆立つ産毛を
背中をさするようにやさしく
触れ合わせた
声にならない思い
純粋な一滴をこぼした
唇とその一滴とで
意識してゆっくり
皺の深みをなぞらえていった
色の薄れ具合をいとおしみ
過ぎていった年月を歌った
時間をかけ
想いという糸を縫い合わせていった

*

萎れた花のびらは
ふるふる
身を震わせたのち
はらり
何枚かのうちの一枚を
静かに
落とした

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