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私と種とは大の仲良しで
毎晩のこと
夜のすっかり更ける頃合いまで
愉しく語らうのが日課だった

私は決まってお布団にくるまりながら
その日に出逢ったことを話し聞かせた
算数の授業で先生にあてられたこと
割り算が苦手なこと
返却された漢字のテストが高得点だったこと
お母さんに褒められたこと
隣のクラスの佐藤君と話せたこと
サッカーに夢中だということ
ミッドフィルダーというポジションで
レギュラーを狙っているということ

種は適度に相槌を打ちながら
静かに私の話を聞き、微笑み、吸収していった
種はその日に出逢ったことを話した
柔らかな土の上
気持ち良さそうに目を細めながら
健やかな秋晴れだったこと
日向ぼっこをしたこと
心もあたたかになること
何を眺めても嬉しいこと
面白い形の雲が通り過ぎたこと
風には強弱があること
散歩中のワンコが挨拶してくれたこと
家のチャイムが二回鳴ったこと
手足が欲しいということ
私は興味深く聞き浸りながら
愛おしく種を見守り
喜びを、分かち合っていた

私たちは永遠に私たちのまま
どこまでも続いていく
ものとばかり思っていたけれど
ある日から徐々に
種は種でなくなっていった
うまく言葉を話せなくなって
もはや私の知っていた種ではなくなって
頭頂からは緑の筋が伸び始めた
私は種が病気になったことを嘆いたが
毎晩のこと
さまざまのことを今までと同じように
種に語り続けた
種は何も語ってはくれなかった
種の病気は明らかに悪くなる一方だった

緑の筋の先には
ぷっくらとまあるく膨らんだおできができた
おできは開くと
それまでの醜さと打って変わり
小さくて可愛らしい白いものへと落ち着いた
私はその小さくて可愛らしい白いものを見るたび
私はにわかに心弾むのを知り
きちんと悲しめばいいのか
いっそのこと喜んでしまえばいいのか
うまく分からなくなった

母はそれをオハナと呼んだ
母は種がオハナになることは
ちっとも悪いことではないのだと言ったが
私にはそれが信じられなかった
私の気持ちは複雑に絡み合い
とても苦しかった
何よりオハナを受け入れてしまうことは
種との友情を馬鹿にしていると思った
私は自らの浅ましさを呪った
心底呪った

だが、やがて
オハナも痩せ細り
代わりに
つぶらで赤くてまあるい実がなった
つぶらで赤くてまあるい実は
甘い香りがし
その香りは私の大好きだった種と
どことなく似ていて
優しい日向の匂いがした

私は思い出していた
種が話してくれた雲のこと
夕焼けが綺麗だった日のこと
一番星を見つけた時の弾んだ気持ち
気持ち良さそうに目を細める仕草
夜更かしの語らい
穏やかな声音

私は思い切って
そのまあるい実を食べることにした
それは私が普段食している果物や野菜と
とてもよく似た色形をしていたから

私は種との思い出で胸をいっぱいにしながら
つぶらで赤くてまあるい実を
勇気を振り絞り
口にふくんだ

つぶらで赤くてまあるい実は
美味しかった
それは日向の優しさを含んで
ぞっとするほど甘く
哀しくなるほどの美味しさだった
私は胸を海水で満たし
震え
泣いた
声をあげて泣いた

種は私に教えてくれたのだ
とても大事なこと

つぶらで赤くてまあるい実の中には
種とそっくりの種がいて
種とそっくりの種は
私の手のひらの上で
まだむず痒そうな身体を起こしながら
あの穏やかな声音で

はじめまして

と言った
私は返した

有り難う

と

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